『死 者』

『死 者』

『死 者』

この本は奢灞都館の処女出版物であることに加えて、山本六三さんの2点の版画が入っているためになかなか入手が難しく、古書価もかなりの価格となっています。私は幸運にも香川県さぬき市の「古書きとら」から2009年に入手しましたが、限定番号4番という『死者』に相応しい番号で大いに喜んだことを覚えています。

入手後すぐに藤井敬子さんにルリユールをお願いしましたが、山本さんが生前に懇意にしていたアルフォンス イノウエさんに作っていただいていた蔵書票と、かなり以前に入手していた票主なしの山本さんの蔵書票を一緒に綴じ込んでもらうことにしました。

差し込み口は黒の仔牛革で縁取られ、黒いオリジナルペーストペーパーで全体がくるまれたスリップケースから本体を取り出すと、同じ材料で造られているシュミーズが出てきます。それを開くと水牛革と仔牛革による黒い表紙に包まれた本体が現れました。『死者』に相応しい雰囲気を十分に醸し出している本体です。背にはタイトルの『死者』だけが下寄りの位置に金箔押しがされていて、品格の高さを感じさせます。全体が黒を基調としていますが、天金と絹糸3色編みのはなぎれが華やかさを添えているようです。タイトルと内容にマッチした黒革装幀本体とシュミーズ、スリップケース全てがお気に入りの一冊です。

原本書誌
・著者:ジョルジュ バタイユ
・訳者:生田耕作
・付属作品:山本六三によるオリジナル銅版画2葉
・発行者:渡辺一考
・編集:谷誠二
・発行所:奢灞都館
・印刷:内外印刷株式会社
・サイズ:h196×w145mm
・発行部数:250部
・出版年:1972年

ルリユール : 藤井敬子
・綴じ込み作品:アルフォンス イノウエおよび山本六三による蔵書票各1葉、栞(『死者』序)
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン(綴じつけ製本)
・綴じ:5本の麻紐支持体 麻糸綴じ 足つき
・表紙:山羊革と仔牛革によるインレイモザイク 色箔押し
・見返し:楮和紙に手彩色
・はなぎれ:絹糸3色編み
・箔押し:大家利夫(本金)
・サイズ:h202.5×w153.5(146)×r27×d22mm
・シュミーズ:仔牛革とオリジナルペーストペーパー
・スリップケース:仔牛革とオリジナルペーストペーパー h208×w160×d30mm
・制作年:2011年

 

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『シメール』

『シメール』

『シメール』

本書は日夏レイさんの初めての詩集で、フランス文学者の生田耕作さんが「序」を、アルフォンス イノウエさんが描き下ろしの「装画」を、3名の写真家が彼女の「ポートレイト」を担当するという極めて贅沢な一冊です。それにしても印刷が決して良いとは言えないのが大変残念です。レイミア プレスで美しい詩集として出版したかった内容ですが、今となっては仕方がありません。出版の経緯は、ルリユ―ルに再録している『BURST』(2004年12月号)のインタビュー記事で知ることが出来ます。この本をルリユ―ルするに当たり、アルフォンスさんのアトリエを訪ね、本書と綴じ込む蔵書票等を持参しお話をしている内に、口絵を描いていただけることとなりました。後日届いた水彩画は本書にまさしく相応しいものでした。その他、私が選んだものよりこの本に相応しいからということで、何点かの蔵書票と版画が追加して同封されていました。アルフォンスさんはとても優しい人です。

これらの綴じ込む14点の作品を藤井敬子さんに預けて、完成を今か今かと待っているときの愉しさというものは、経験した者でないと分からないのではないでしょうか。

仔牛革とオリジナルペーストペーパーによるスリップケースとシュミーズに入っている新たに装われた本書は、白の仔牛革をベースにしてその上に水色と灰色の山羊革が螺旋形のモザイクにデザインされた明るくて瀟洒な雰意気を出しています。見返しは水色と灰色のグラデーションが楮和紙に手彩色され、この見返しを開いて本文ページを開くワクワク感を、いやがうえにも湧き立たせてくれています。綴じ込まれている数点の蔵書票の票主は、日夏さんはもとより、署名していただいている生田耕作さん、山本六三さんに私です。日夏さんは現在フランスにお住いですが、アルフォンスさんとは旧知の仲なので、いつか帰国された折に紹介していただき、本書に署名をいただくのが私の夢でもあります。

原本書誌
・著者:日夏レイ
・発行者:菅原貴緒
・発行所:株式会社牧神社
・印刷 製本:栄泰印刷
・サイズ:h210×w146mm
・出版年:1977年1月31日

ルリユール : 藤井敬子
・綴じ込み作品:アルフォンス イノウエによる水彩画1葉、蔵書票12葉、銅版画1葉 『BURST』掲載記事
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン(綴じつけ製本)
・綴じ:5本の麻紐支持体 麻糸綴じ
・表紙:山羊革と仔牛革によるオンレイ、インレイモザイク
・見返し:楮和紙に手彩色
・はなぎれ:絹糸3色編み
・箔押し:大家利夫(本金)
・サイズ:h216×w157×d29mm
・シュミーズ:仔牛革とオリジナルペーストペーパー h217×w165mm
・スリップケース:仔牛革とオリジナルペーストペーパー h224×w165×d38mm
・制作年:2012年

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『ベル フィーユ』

『ベル フィーユ』

『ベル フィーユ』

奢灞都館から直接本を購入するようになったのは、1990年代中ごろからのことです。特にオリジナル版画が入っている山本六三さんの『エロス タナトス』、金子國義さんの『初稿 眼球譚』、そしてアルフォンス イノウエさんの本書は私にとって貴重な限定本となっています。本書の出版案内が届いた時に限定本と共にその未綴じ本を二セット予約注文しました。すると生田かをるさんから了解の連絡とともに、「奥付のナンバーのところに朱で二冊とも『著者本』と入れたいのですが、(中略)製本が出来上がってから井上さんに書いて頂くか、私の方に言って頂くかして下さい。必ず空欄のままにしないて下さい。お願い申し上げます。生田」とお便りがありました。未綴じ本の二セットは、アルフォンスさん用と江副用に準備したものです。

折角の機会ですからこの本を出来るだけ豪華にしようと考え、神戸にアルフォンスさんを訪ね、このルリユ―ルのための水彩画のほかに蔵書票を含む銅版画を特別に刷っていただくことにしました。待つことしばし、アルフォンスさん用に8点、江副用に11点の作品が送られてきました。

私はこの未綴じ本のルリユ―ルを Atelier Leaves の藤井敬子さんにお願いし、待つこと1年半。初めての藤井さんのルリユ―ルを手にし、高まる期待に胸がドキドキして仕方がありませんでした。スリップケースから本書を取りだすと、薄いピンク革に濃いピンクに染めた楮和紙を削ぎ合わせた和紙モザイク法で制作されているシュミーズが現れます。そのシュミーズを開けると薄いクリーム色に染められた仔牛革に四色の仔牛革でモザイクされた表紙が現れました。いかにもアルフォンスさんの銅版画の雰囲気を醸し出しているデザインとなっています。アルフォンスさんの分と私の分の二冊をお願いしたところ、藤井さんはこの二冊を並べると表紙がつながるようにデザインしてくれました、まるで兄弟のように。この二冊の本には製本仕様のほかに内容などが細かく記載されているパスポートが付いているのです。私の期待以上の装幀に大いに満足し、早くアルフォンスさんに見せて自慢したい気持ちになりました。

完成後神保町のかわほり堂で生田さんにお会いしこの二冊本をお見せしたところ、その出来栄えに満足されたようで、約束どおり奥付に朱で「著者本」と書き入れて下さいました。後日、出来上がった一冊を持って神戸にアルフォンスさんをお訪ねし、贈り物として差し上げたところ、大変喜んで下さいました。私もとても嬉しかったです。

原本書誌
・著者:アルフォンス イノウエ
・付属作品:アルフォンス イノウエによるオリジナル銅版画2葉
・発行者:生田かをる
・発行所:奢灞都館
・印刷:創文社
・製本:須川バインダリー
・小口装飾:天金
・サイズ:h262×w215×d18mm
・スリップケース:h269×w197×d28mm
・発行部数:120部
・出版年:平成15(2003)年7月

ルリユール : 藤井敬子
・綴じ込み作品:アルフォンス イノウエによる水彩画1葉、銅版画12葉
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン(綴じつけ製本)
・綴じ:5本の麻紐支持体 麻糸綴じ 足つき
・表紙:4色の仔牛革によるオンレイ、インレイモザイク
・見返し:手染め楮和紙モザイク
・はなぎれ:絹糸3色による手編み
・タイトル箔押し:大家利夫(本金)
・小口装飾:藤井敬子(天金)
・サイズ:h268×w207×d30mm
・シュミーズ:仔牛革と楮和紙手彩モザイク
・スリップケース:仔牛革と楮和紙 h276×w217×d37mm
・制作年:2007年

 

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『影法師』

『影法師』

『影法師』

「子猫のゴヤは生まれたときから影がなかった。」で始まる挿絵本『影法師』は、柄澤齊さんによる物語です。もちろん口絵、挿絵ともに柄澤さんによる木口木版画です。最初から製本することを前提として発行されていますので、150部すべて未綴じ本です。

柄澤さんの挿絵本はこれまで、『ペレアスとメリザンド』『雅歌』『聖者の行進』などがあります。「SHIP」と共に届いた出版案内を見て早速予約注文しました。

原井栄子さんがイタリアで製本の修業をしていることを知った私は、この本も彼女にルリユールしてもらうこととし、別の1冊とともにイタリアに郵送しました。

「影法師」と背に空押しされている夫婦函を開けると、黒い山羊革の表紙の中から、いきなり濃い青色のしっぽが飛び出してきました。本文を開くと挿絵から分かるのですが、それは正に草むらに隠れているゴヤのしっぽそのものです。このしっぽの濃い青色の山羊革は表紙内側の見返しにも使用されていて、表紙を開くと私の視線はそのしっぽから見返しへとスムーズに動いていきます。よく見ると、天も同じ濃い青色に染められていて憎いばかりの心配りです。日本から遠く離れたイタリアの地で、原井さんはどのような気持ちでこの本を製本していたのか、私には知る由もありませんが、「EIKO HARAI」と空押しされた本書をいつまでも大切にしたいと思っていました。しかしその後、この可愛い本を所蔵するにふさわしい長男のお嫁さんにプレゼントして、大切にしてもらうことにしたのでした。

原本書誌
・著者:柄澤齊
・発行者:柄澤齊
・装幀 & レイアウト:柄澤齊
・発行所:梓丁室
・印刷:インクジェットプリント
・外装:二つ折り簡易たとう
・サイズ:h148×w119×d6mm
・発行部数:150部
・出版年:2005年6月6日

ルリユ―ル : 原井栄子
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン
・綴じ:本かがり綴じ
・表紙:山羊革オンレイ
・表紙内側見返し:山羊革
・見返し:スウェード
・天装飾:天染め
・はなぎれ:三段編み
・サイズ:h153×w125×d15mm
・夫婦函:h178×w150×d35mm
・制作年:2011年

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『車谷長吉句集』

『車谷長吉句集』

『車谷長吉句集』

車谷長吉さんの作品を読むようになったのは、最初の作品集『鹽壺の匙』にひどく感激したからです。そのあとがきに書かれている「詩や小説を書くことは救済の装置であると同時に、一つの悪である。(中略)凡て生前の遺稿として書いた。書くことは狂気である」という言葉に大いに刺激を受けてしまいました。それからは彼の作品を読むようになったのです。

湯川書房から、車谷さんの『抜髪』『車谷長吉句集』『蜘蛛の巣』『車谷長吉恋文絵』の4冊が出版されていて、私はいずれも高槻市にある書肆R.R.から購入しています。いつ頃だったでしょうか、書肆R.R.から送られてきた古書目録を見て、すぐさま未綴じ、署名箋付きの『車谷長吉句集』を注文しました。この未綴じ本は湯川書房と昔から縁の深かった書肆R.R.店主が入手され、目録掲載となったと思われます。

製本家の原井栄子さんと知り合ったのは、2008年福岡で開催されていた豆本の展覧会だったと記憶しています。その後原井さんはイタリアに渡り、リミニ在住の製本家ルイジ カスティリオーニさん(Luigi Castiglioni)のアトリエで製本の修業をしました。修行中の2011年4月に私は彼女にルリユールして欲しい本を2冊送りました。その内の1冊が本書です。そして夫婦函に入ったルリユール本が届いたのは、その年の暮れのことでした。

しっかりした夫婦函を開けると、濃淡の赤染め山羊革でモザイクによる正方形が黒染め山羊革表紙の中央にオンレイされています。この赤は車谷さんの「狂気」を思い起こさせる色だと思います。表紙側の見返しには山羊革が、本文側にはスウェードが使用されていて、重厚な三段装となっています。中表紙前には2005年神保町で開催された「車谷長吉俳句墨書展」会場で私が撮影した写真が綴じ込まれているほか、車谷さんの著書のために作ってもらった林美紀子さんの木版蔵書票が貼られています。

私は車谷さんの次の二句が大好きです。

秋の蠅忘れたきこと思ひ出す
鴫焼きの茄子の尻喰うをなごかな

原本書誌
・著者:車谷長吉
・発行者:湯川誠一
・装幀:加川邦章
・発行所:湯川書房
・印刷:創文社
・製本:神戸須川バインダリー
・体裁:本分二色刷
・表紙:紬着地とモロッコ革による継表紙
・サイズ:h197×w155×d15mm
・スリップケース:h202×w158×d23mm
・発行部数:100部
・出版年:2000年5月30日

ルリユ―ル : 原井栄子
・綴じ込み作品:口絵に車谷長吉の写真(2005年の俳句墨書展会場にて)
・仕様: 総革装
・製本形態: パッセ カルトン
・綴じ:本かがり綴じ
・表紙: 山羊革、山羊赤染革オンレイ
・表紙内側見返し: 山羊革
・見返し:スウェード
・天装飾:天石墨染め
・はなぎれ:三段編み
・サイズ:h193×w155×d18mm
・夫婦函:h220×w180×d42mm
・制作年:2011年

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