『ベル フィーユ』

奢灞都館から直接本を購入するようになったのは、1990年代中ごろからのことです。特にオリジナル版画が入っている山本六三さんの『エロス タナトス』、金子國義さんの『初稿 眼球譚』、そしてアルフォンス イノウエさんの本書は私にとって貴重な限定本となっています。本書の出版案内が届いた時に限定本と共にその未綴じ本を二セット予約注文しました。すると生田かをるさんから了解の連絡とともに、「奥付のナンバーのところに朱で二冊とも『著者本』と入れたいのですが、(中略)製本が出来上がってから井上さんに書いて頂くか、私の方に言って頂くかして下さい。必ず空欄のままにしないて下さい。お願い申し上げます。生田」とお便りがありました。未綴じ本の二セットは、アルフォンスさん用と江副用に準備したものです。

折角の機会ですからこの本を出来るだけ豪華にしようと考え、神戸にアルフォンスさんを訪ね、このルリユ―ルのための水彩画のほかに蔵書票を含む銅版画を特別に刷っていただくことにしました。待つことしばし、アルフォンスさん用に8点、江副用に11点の作品が送られてきました。

私はこの未綴じ本のルリユ―ルを Atelier Leaves の藤井敬子さんにお願いし、待つこと1年半。初めての藤井さんのルリユ―ルを手にし、高まる期待に胸がドキドキして仕方がありませんでした。スリップケースから本書を取りだすと、薄いピンク革に濃いピンクに染めた楮和紙を削ぎ合わせた和紙モザイク法で制作されているシュミーズが現れます。そのシュミーズを開けると薄いクリーム色に染められた仔牛革に四色の仔牛革でモザイクされた表紙が現れました。いかにもアルフォンスさんの銅版画の雰囲気を醸し出しているデザインとなっています。アルフォンスさんの分と私の分の二冊をお願いしたところ、藤井さんはこの二冊を並べると表紙がつながるようにデザインしてくれました、まるで兄弟のように。この二冊の本には製本仕様のほかに内容などが細かく記載されているパスポートが付いているのです。私の期待以上の装幀に大いに満足し、早くアルフォンスさんに見せて自慢したい気持ちになりました。

完成後神保町のかわほり堂で生田さんにお会いしこの二冊本をお見せしたところ、その出来栄えに満足されたようで、約束どおり奥付に朱で「著者本」と書き入れて下さいました。後日、出来上がった一冊を持って神戸にアルフォンスさんをお訪ねし、贈り物として差し上げたところ、大変喜んで下さいました。私もとても嬉しかったです。

原本書誌
・著者:アルフォンス イノウエ
・付属作品:アルフォンス イノウエによるオリジナル銅版画2葉
・発行者:生田かをる
・発行所:奢灞都館
・印刷:創文社
・製本:須川バインダリー
・小口装飾:天金
・サイズ:h262×w215×d18mm
・スリップケース:h269×w197×d28mm
・発行部数:120部
・出版年:平成15(2003)年7月

ルリユール : 藤井敬子
・綴じ込み作品:アルフォンス イノウエによる水彩画1葉、銅版画12葉
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン(綴じつけ製本)
・綴じ:5本の麻紐支持体 麻糸綴じ 足つき
・表紙:4色の仔牛革によるオンレイ、インレイモザイク
・見返し:手染め楮和紙モザイク
・はなぎれ:絹糸3色による手編み
・タイトル箔押し:大家利夫(本金)
・小口装飾:藤井敬子(天金)
・サイズ:h268×w207×d30mm
・シュミーズ:仔牛革と楮和紙手彩モザイク
・スリップケース:仔牛革と楮和紙 h276×w217×d37mm
・制作年:2007年

 

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