『断 片』 Ⅰ、Ⅱ

『断 片』 Ⅰ、Ⅱ

『断 片』 Ⅰ、Ⅱ

野呂邦暢さんは長崎県は諫早市の出身で、郷里に住みながら作家活動をしていましたが、1979年に42歳で急逝されました。私の郷里は諫早市に近い島原市でしたので、郷土の作家として野呂さんの作品を愛読していました。亡くなる少し前にはお便りをいただいたりして、これから親交を深めてゆきたいと思っていた矢先の逝去でしたので、訃報を聞いて私は愕然としました。それからはそれまで以上に野呂さんにのめり込んでゆきました。自筆限定本や署名本を求めたり、果ては自筆原稿や自筆書簡まで蒐集するようになりました。その結果、幸運にも未発表原稿を入手することが出来、文遊社の『野呂邦暢小説集成』に収録されることとなりました。それまで蒐集してきた多種多様な野呂さん関係資料がかなり増えてきたので、ここらで一区切りつけるために纏めて製本してもらうことを計画しました。

今回は、Les fragments de M (frgm)のホームページに掲載されているクラシックスタイルのパッセ カルトンの定型半革装のうち両袖装のデザインでお願いすることとしました。frgmは3名の製本家と1名の箔押し師のユニットなので、誰が製本を担当するかは私には分かりませんでしたが、製本は羽田野麻吏さん、箔押しは中村美奈子さんが担当することとなりました。

しぼがきれいな濃い紫染の山羊革とfrgmのために特別に染められた黄土色の染め紙が表紙を彩っており、見返しの濃い焦げ茶の染め紙と相俟って、大変重厚感のある装幀となっています。資料が多かったために二分冊となり、ケースは二冊を一緒に収めることが出来るように、これまであまり見たことのない二連スリップケースとなっています。製本のしやすさなどを全く考慮しないで少し厚めの紙に印刷をしてしまったにもかかわらず、しっかりと製本していただいたので大いに満足している一冊です。

原本書誌
・著者:野呂邦暢
・発行:レイミア プレス
・レイアウト:江副章之介
・サイズ:h297×w210mm
・発行部数:1部
・出版年:2013年

ルリユ―ル : 羽田野麻吏
・綴じ込み作品:松原邦光、大川信夫、Albin Brunovsky、利渉重雄、林由紀子、Katarina Vavrova、辻憲、渡辺栄一の版画のほか、野呂邦暢の自筆原稿、手紙、はがき、著書目録、書影など関係資料
・仕様:半革両袖装
・製本形態:パッセ カルトン
・綴じ:本かがり(麻紐支持体5本)
・表紙:山羊革と染め紙(corylus bis.)
・見返し:染め紙(corylus bis.)
・はなぎれ:3色絹糸三段編み
・箔押し:中村美奈子
・サイズ:Ⅰ:h263×w190×d32mm Ⅱ:h263×w190×d35mm
・二連スリップケース: h266×w194×d75mm 手染め紙貼り
・制作年:2013年

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『坂東壯一蔵書票集』

『坂東壯一蔵書票集』

『坂東壯一蔵書票集』

レイミア プレス4冊目の出版物です。特装版に新作蔵書票5点を綴じ込むために5名の票主を募集し、テーマを提示してもらい坂東さんに作っていただきました。票主の希望のテーマはそれぞれ「DON QUIXOTE」「ダイヤモンド」「湿原の蘭」「旅の終り」「MEMENTO MORI」でした。「蔵書票が完成したら、下絵はすべて廃棄する」と言われたので大いに驚き下絵も提供していただき、票主に渡したところ大変喜んでもらいました。今回も羽田野さんにルリユ―ルをお願いしました。

白段ボールの保護函を開けると黒を主体とした染め紙と茶と黒の模様の染め紙が貼られている夫婦函が現れます。その上にレモン形の黒染め紙に作家名とタイトルが金箔押しされて光っています。それを見ると次に現れる書物全体の様相が想像されるようです。夫婦函を開けると表紙全体が黒に染められたしぼの美しい山羊革で包まれ、表表紙には幻想的で不思議な形状が胃袋革と蜥蜴革と染め紙でデザインされているのが目に入ります。このデザインのテーマは「MEMENTO MORI」だとお聞きしました。表紙を開くと落ち着いたグレー系の仔牛革と茶系の染め紙による見返しです。色とりどりの糸で編み込まれた三段のはなぎれが彩りを添えてくれています。

羽田野さんのルリユ―ルは表紙のデザインだけではなく見返しにも見所があります。私は素人なのでよく分かりませんが、ひと工夫もふた工夫もされているように思えます。保護函から出し夫婦函を開いて本体を初めて見た時、そして表紙をめくって見返しを見た時の依頼者の驚きの顔や、満足して悦に入った顔を思い浮かべながらデザインされているのではないか、と私は勝手に想像してしまいます。要するにルリユールとは、書物の表紙、見返し、はなぎれ、小口装飾、それを包むシュミーズ、スリップケース、夫婦函など、その書物全体を一つの美しいオブジェへと変身させる総合的なビブリオ アートだといえるのではないでしょうか。

坂東さんには今回のルリユ―ルに綴じ込むために、これまで作っていただいた私の蔵書票を特別に刷ってもらい、おまけに手彩色までしていただきました。もちろん「MEMENTO MORI」の下絵のほかに坂東さんのイニシャルを手描きしたロゴも併せて綴じ込んでもらっています。素敵なルリユ―ル本がまた一冊本箱に加わりました。

原本書誌
・著者:坂東壯一
・付属作品:坂東壯一オリジナル蔵書票5葉
・版画集撮影:江副良介
・組版:中島悠子
・レイアウトと製本:北見俊一
・印刷:イニュニック
・発行所:レイミア プレス
・サイズ:h263×w188×d26mm
・スリップケース:h270×w193×d35mm
・発行部数:25部
・出版年:2014年3月15日

ルリユ―ル : 羽田野麻吏
・ルリユ―ル綴じ込み作品:坂東壯一による手描きロゴ、蔵書票下絵、銅版蔵書票3葉
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン
・綴じ:本かがり(麻紐支持体5本)
・表紙:山羊革に染め紙と胃袋革・蜥蜴革によるデコール.
・表紙内側見返し:仔牛革
・見返し:染め紙
・はなぎれ:7色絹糸三段編み
・箔押し:中村美奈子
・サイズ:h265×w190×d25mm
・夫婦函:h276×w201×d35mm
・制作年:2016年

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『プシュケの震える翅』

『プシュケの震える翅』

『プシュケの震える翅』

本書はレイミア プレスの3冊目の出版物です。私が林由紀子さんを知ったのは、インターネット上で彼女の作品『四つの時の扉』『夢の領域』を見つけた2004年12月のことでした。彼女の蔵書票作品に魅せられた私はそれから多くの蔵書票を依頼しました。林さんは坂東壯一さんに銅版画の指導を受け、坂東さんとは異なるエングレーヴィングの技法で作品を作っています。彼女は「作家」と言うよりも「職人」と言った方が相応しい人です。それは、作品に対する一途な気持ち、「やる」と言ったら期日までに必ずやり遂げる気質は「職人」そのものです。今でもデッサン教室に通ったり、ヨーロッパの美術館に行き充電したりしていることからも分かります。知り合ってから5年。彼女の蔵書票作品が100点を超えたので、高輪の啓祐堂ギャラリーでの個展開催を機に蔵書票集を出版することにし、その時の未綴じ版をルリユールすることにしました。

ルリユ―ルするに当たっては、これまで何度か個展会場でお目に掛かった ATELIER CORYLUS の羽田野麻吏さんにお願いすることとしました。そして林さんには新たに蔵書票と水彩画2点をお願いし、それらを綴じ込んでもらいました。お願いして1年以上経った頃にルリユール完成の連絡をいただき早速羽田野さんのアトリエに行きました。

ドキドキしながら保護函を開けると、雲母の入った染紙の夫婦函が目に飛び込んできました。アトリエのライトに反射した雲母で目がくらくらしました。チョコレート色の不思議な形の革の横に、作者名とタイトルが金箔押しされています。「うーん!」と唸りながら夫婦函を開けると、数種類の革でレイアウトされた表紙が現れました。広い面積を占めているのは象牙色のヴェラムのようです。ヴェラムの上に重ねて貼られている革の種類が分かりません。仕様を見ると蛙の革とのことです。背の部分はその模様から蛇革のようですが、なんという蛇なのでしょうか。表紙を開くと豚革と染紙による見返しです。染紙は銀色に輝き、再び私の目をくらくらさせます。それにしても手の込んだ凄い本が出来上がったものです。手に取るとその心地よい重さと手触りに息をのむばかりです。期待をはるかに超えた見事なルリユ―ルが出来てきたのでした。

原本書誌
・著者:林由紀子
・付属作品:オリジナル手彩色銅版蔵書票10葉(ルリユ―ル本には綴じ込まれていない)
・発行者:江副章之介
・装幀 & レイアウト:中村利夫
・発行所:レイミア プレス
・印刷:モリモト印刷株式会社
・製本:株式会社エイワ
・サイズ:h304×w215×d15mm
・夫婦函:h324×w230×d27mm
・発行部数:55部
・出版年:2010年7月1日

ルリユ―ル : 羽田野麻吏
・綴じ込み作品:林由紀子による水彩画2葉、手彩色銅版蔵書票5葉
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン
・綴じ:本文中綴じ足付き及びテープ入り平綴じ
・表紙:パーチメントにヴェラムと蛙革、蛇革に焼き箔のデコール
・表紙内側見返し:豚革
・見返し:染め紙
・箔押し:中村美奈子
・サイズ:h300×w220×d23mm
・夫婦函:h313×w233×d31mm
・制作年:2012年

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『ユメノユモレスク』

『ユメノユモレスク』

『ユメノユモレスク』

福岡の書肆侃侃房から出された『ユメノユモレスク』普及版とは本文紙質と大きさを変えるとともに本文ページのマージンを広くとり、アルフォンス イノウエさん、杉本一文さん、林由紀子さん、宮島亜紀さんのオリジナル版画を綴じ込んだ特装版をレイミア プレスから30部出版しました。その未綴じ版を利用して、挿画のオリジナル銅版画だけではなく、この4名の作家に作ってもらった私の名入りの蔵書票と銅版画作品、関係者の署名紙、その他普及版のジャケット、表紙、帯、見返し紙などの関係資料全てを綴じ込んだ版元版として、frgmの平まどかさんにルリユ―ルをお願いしました。

表紙全体が黒山羊革で包まれているために重厚さが感じられますが、表表紙の半分には桜色の手染め装飾紙が貼られていて、華やかさも醸し出している一冊となっています。表紙を開くとワインレッドに染められた仔牛革見返しと和紙の手染めによる遊び紙見返しが、洋と和の心地よい調和を導き出しています。綴じ込まれた版画や資料が多かったためにかなりの厚さになってしまいましたが、本書は手染め和紙が貼られている夫婦函に収まっていて、その装幀といい、大きさといい、重さといい、立派な版元版が出来上がりました。

原本書誌
・著者:夢野久作
・装画:アルフォンス イノウエ、杉本一文、林由紀子、宮島亜紀
・付属作品:装画のオリジナル銅版画全4葉
・発行者:江副章之介
・校訂:沢田安史
・編集:田島安江、宮島亜紀、佐々木孝
・DTP:黒木留実
・印刷所:アロー印刷株式会社
・製本:Les fragments de M
・発行所:レイミア プレス
・サイズ:h304×w215×d15mm
・夫婦函:h324×w230×d27mm
・発行部数:30部
・出版年:2016年3月11日

ルリユ―ル : 平まどか
・綴じ込み作品:4名の作家によるオリジナル銅版画と蔵書票各1葉 計8葉 その他各種版元資料
・仕様:半革装
・製本形態:パッセ カルトン
・綴じ:本かがり
・表紙:黒山羊革
・デコール:手染め装飾紙と白仔牛革による嵌め込み装飾
・表紙内側見返し:ワインレッド仔牛革(きき紙)
・見返し:手染め(遊び紙)
・はなぎれ:3色絹糸三段編み
・箔押し:中村美奈子
・サイズ:h261×w194×d44mm
・夫婦函:h279×w208×d53mm
・制作年:2017年

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『旅にしあれば』

『旅にしあれば』

『旅にしあれば』

本書はレイミア プレスからの5番目の出版物です。出版の経緯は「レイミア プレス出版案内」に詳述していますので、ご覧ください。

本書は著者用と私用に11部を吉田八洲夫さんに製本をしてもらいましたが、これらの他に版元本として製本を Les fragments de M(frgm)にお願いしました。このfrgmは3名の製本家と1名の箔押し師のユニットですが、本書の製本は平まどかさんが、箔押しは中村美奈子さんが担当することとなりました。製本仕様は、frgmのホームページに掲載されている「クラッシックスタイルのパッセ カルトン」の定型半革装のうち、私が好きな角革装でお願いすることとしました。

しぼがきれいな黒山羊革とfrgmのための特別染め紙が表紙を彩っており、見返しの濃い焦げ茶模様の染め紙と相俟って、大変落ち着きのある装幀となっています。

原本書誌
レイミア プレス出版案内をご覧ください。

ルリユ―ル : 平まどか
・ルリユ―ル綴じ込み作品:大﨑夏子によるオリジナル水彩口絵、林由紀子による蔵書票
・仕様:半革角革装
・製本形態:パッセ カルトン
・綴じ:本かがり(麻紐支持体5本)
・表紙:山羊革と染め紙(corylus bis.)
・見返し:染め紙(corylus bis.)
・はなぎれ:3色絹糸三段編み
・箔押し:中村美奈子
・サイズ:h263×w188×d25mm
・スリップケース:手染め紙貼り h269×w190×d31mm
・制作年:2013年

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