『プシュケの震える翅』

本書はレイミア プレスの3冊目の出版物です。私が林由紀子さんを知ったのは、インターネット上で彼女の作品『四つの時の扉』『夢の領域』を見つけた2004年12月のことでした。彼女の蔵書票作品に魅せられた私はそれから多くの蔵書票を依頼しました。林さんは坂東壯一さんに銅版画の指導を受け、坂東さんとは異なるエングレーヴィングの技法で作品を作っています。彼女は「作家」と言うよりも「職人」と言った方が相応しい人です。それは、作品に対する一途な気持ち、「やる」と言ったら期日までに必ずやり遂げる気質は「職人」そのものです。今でもデッサン教室に通ったり、ヨーロッパの美術館に行き充電したりしていることからも分かります。知り合ってから5年。彼女の蔵書票作品が100点を超えたので、高輪の啓祐堂ギャラリーでの個展開催を機に蔵書票集を出版することにし、その時の未綴じ版をルリユールすることにしました。

ルリユ―ルするに当たっては、これまで何度か個展会場でお目に掛かった ATELIER CORYLUS の羽田野麻吏さんにお願いすることとしました。そして林さんには新たに蔵書票と水彩画2点をお願いし、それらを綴じ込んでもらいました。お願いして1年以上経った頃にルリユール完成の連絡をいただき早速羽田野さんのアトリエに行きました。

ドキドキしながら保護函を開けると、雲母の入った染紙の夫婦函が目に飛び込んできました。アトリエのライトに反射した雲母で目がくらくらしました。チョコレート色の不思議な形の革の横に、作者名とタイトルが金箔押しされています。「うーん!」と唸りながら夫婦函を開けると、数種類の革でレイアウトされた表紙が現れました。広い面積を占めているのは象牙色のヴェラムのようです。ヴェラムの上に重ねて貼られている革の種類が分かりません。仕様を見ると蛙の革とのことです。背の部分はその模様から蛇革のようですが、なんという蛇なのでしょうか。表紙を開くと豚革と染紙による見返しです。染紙は銀色に輝き、再び私の目をくらくらさせます。それにしても手の込んだ凄い本が出来上がったものです。手に取るとその心地よい重さと手触りに息をのむばかりです。期待をはるかに超えた見事なルリユ―ルが出来てきたのでした。

原本書誌
・著者:林由紀子
・付属作品:オリジナル手彩色銅版蔵書票10葉(ルリユ―ル本には綴じ込まれていない)
・発行者:江副章之介
・装幀 & レイアウト:中村利夫
・発行所:レイミア プレス
・印刷:モリモト印刷株式会社
・製本:株式会社エイワ
・サイズ:h304×w215×d15mm
・夫婦函:h324×w230×d27mm
・発行部数:55部
・出版年:2010年7月1日

ルリユ―ル : 羽田野麻吏
・綴じ込み作品:林由紀子による水彩画2葉、手彩色銅版蔵書票5葉
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン
・綴じ:本文中綴じ足付き及びテープ入り平綴じ
・表紙:パーチメントにヴェラムと蛙革、蛇革に焼き箔のデコール
・表紙内側見返し:豚革
・見返し:染め紙
・箔押し:中村美奈子
・サイズ:h300×w220×d23mm
・夫婦函:h313×w233×d31mm
・制作年:2012年

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