05. 大﨑航・大﨑夏子『旅にしあれば』

大﨑航さんは、私の小・中学校時代の同級生のご子息です。北海道大学で学んでいましたが、中途退学して海外旅行に出かけました。訪ねた国々は中国、東南アジア、インド、ネパールです。

旅立つ前に彼の母親から「海外への一人旅はとても心配だ」と相談を受けましたが、自分も若い時に1年以上、ソ連や欧州、モロッコ、中近東、アジアへ一人旅したことを振り返れば、助言らしきことができるとは思えませんでした。若者がやりたいと思うことを止めることはできません。その時私は、「親はただ見守ることしかできない」というようなことを話したと思います。彼が出かける前に、私が海外旅行した時に書いたものをコピーして送りました。自分は我がままでこのような旅をし、そして帰ってきたということを知ってほしかったからです。

数年後、帰国した彼から、原稿用紙に鉛筆で書いた「詩とも散文とも旅行記ともつかないもの」が送られてきました。それはずっとそのままになっていましたが、2012年1月のある日、探し物をしていたところ本棚の片隅に1998年6月に彼から送られてきたその封書を見つけました。そして、その手紙を初めて読んだ時の感想が再び蘇ってきました。

そこには旅先での体験が瑞々しい感受性で表現されていて、まるで追体験したような錯覚を覚えるほどでした。内容は、「砂漠の花と音楽と」「駅」「羊」「祈り」「旅の途上」「潮騒」「境界」と題する7篇の、確かに詩とも散文とも旅行記ともつかないものでした。私はこれを改めて読み返し、我が家のパソコンに入力しプリントアウトしたものを、A5サイズで40ページほどの小冊子として3部製本し、2部を彼に送りました。するとすぐに返事が来て「これらの他にも、書いているものがかなりたくさんある」ということなので、それらを加えて一冊にまとめることで、長い間放置していたことを許してもらおうと考えました。

2012年2月から8月にかけて送られてきた詩編を次々に入力し、プリントアウトしたゲラ刷りの送付、校正の返送と彼とのやり取りを短期間のうちに何回も繰り返し、7篇だった詩は27篇に増えました。その間、奥様が画家だと分かり、インド、パキスタン、カンボジアの旅先で描いたモノクロや手彩色の30点の絵を装画として掲載することとしました。巻頭を飾る11点の絵が新たに描き起こされ、彼の友人の写真家、小池英文さんの写真2点を見返しと本文に掲載して、原稿も書いてもらいました。

本書は180ページの本文と11点の口絵が入っているA4サイズのために、きちんとした製本の専門家にお願いすることにしました。そこで以前から色々製本をお願いしている吉田製本所の吉田八洲夫さんに相談すると、11部という少部数ながら快く引き受けてもらいました。糸かがり綴じのクロス製本で、背にはタイトルを箔押しし、口絵や扉の前には厚手のトレーシングペーパーを挟むというお願いも、サラリと対応してくれる吉田さんには感謝、感謝です。臙脂色の本書が製本されて手元に届いたときに、この本に相応しいスリップケースを作りたい、と強く思いました。スリップケース作りは以前から趣味だったので、大﨑さんと私用に渋めの色合いで2個だけ作りました。自分でも結構気に入ったスリップケースが出来たと自画自賛している次第です。

頻繁にやり取りしたゲラ刷りを今見ると、余白にはお互いの感想が赤裸々に書き込まれていて、当時二人とも熱病に罹ったように熱くなりながら、この本造りにのめり込んでいたことが分かります。二人だけの作業にとどまらず奥様も加わり、更には母親の絵が大好きな子供たちまで巻き込んでしまい、この家族全員と私は、かなり濃密な時間を過ごすことになりました。

 

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内容

  • 著者:大﨑航
    リアリティ欠乏症 / 札幌という街 / いきなり渦中に飛び込んだ / 駅 /血の色の宴 / 旅の途中 / 戯 れ / 越 南 / 雨にぬれても / 月と河と花と / 逃亡中 / 雨 季 / 潮 騒 / 砂漠と花と音楽と / ただ走りぬけてみたいだけ /羊 / シルクロードの夢 / See you tomorrow / トゥリンにて / 熱 病 / 祈 り / 異教徒の地 / 境 界 / 八月の雪 / ディネーシュ チャンドラとの出会い / 臨 月 / 胎内回帰 / あとがき ― 命は明滅する ―
  • 装画:大﨑夏子
    描きたくなった物たち(11点) / 偉大なる無我を学べ / ガンジーそっくりのおじいちゃん / たまごのような川で筏にのる / 岩ごっこ / リクシャマン / 黒ババ / ブリキ屋 / せんぷうきの下で昼寝する人 / マンゴー売り / 物の怪 / 冬の寒い日、ガートに座っている / 米のお菓子を食べる子供 / 3人で魚にごはんをやった / チラム男 / 晴れの日にかさをさす / クンブメーラー / 旅の途中で迷子 / たぶん、かみタバコを作る人 / バス休けいでジュースを飲む人 / ガンジャ畑でオシッコするオッチャン / 朽ちたストゥーパ / 菓子売りのおやじの休み時間 / ガートで祈る人 / 帽子に花をかざったおじちゃん / きゅうくつ / お祭りが、くる / 王さま / 夢のなかへ / 想像力のつきた今 / ばいばーい
  • 写真:小池英文
    永遠を祈る1 / 永遠を祈る2

仕様

  • 大きさ:A4判、29.7×21.0cm
  • 装幀:丸背上製本
  • 編集・印刷・発行:江副章之介
  • 製本:吉田八洲夫
  • 部数:限定11部、非売品
  • 発行日:2012年2月10日

在庫状況

非売品