『銅版苦楽部』

『銅版苦楽部』

『銅版苦楽部』

1983年、詩人で銅版画家の岩佐なをさんに長男誕生を記念して蔵書票を依頼しました。これが私の蔵書票第一号です。それから現在までに140点の蔵書票を国内外の版画家に作ってもらいました。ところで本書は2010年高輪にある画廊オキュルスで開催中の展覧会で見つけたものです。岩佐さんによる15点の手彩色オリジナル銅版画にタイトルが付けられ、それぞれの版画には鉛筆書きで詩が添えられており、版画の横には色鉛筆や水彩で添え描きされていて実に面白い内容です。版画と添え描きの生き物は皆変な顔をしているのですが、とてもユーモラスで愛らしいのです。しかもこれは岩佐さんが自分で簡易に製本したもので、左端に二つ穴を開け紐で無造作に括ってありました。こんな素敵な本が売れ残っていたのですから私は幸運の持ち主でしょう。何も考えずに、即買いです。この本を見てすぐに思い出したのが岩佐さんに作ってもらった1983年の蔵書票でした。あれから30年後の蔵書票を本書に綴じ込んでルリユ―ルしてもらい、30歳になった長男への贈り物にしようと考えました。二つの蔵書票を比べると、長男が「少年」から「青年」へと成長した顔つきとなっています。彼自身がこのようにしっかりと成長したかどうかは疑問ですが、私は満足して近藤理恵さんに一式をお渡しし、誕生日に間に合うようにルリユ―ルを依頼しました。近藤さんは表紙を可愛くデザインし、見返しに下記のような贈り物のメッセージを箔押ししてくれました。果たして長男は気に入ってくれたでしょうか。
“ TAKURA, FOR YOUR 30TH BIRTHDAY FROM YOUR PAPA, JULY 8, 2013 ” 

原本書誌
・著者:岩佐なを
・付属作品:岩佐なをによるオリジナル銅版画15葉
・発行者:岩佐なを
・装幀&レイアウト:本書全て岩佐なをによる手造り
・発行所:玄工房
・サイズ:約h190×w285×d8mm
・発行部数:1部
・出版年:2010年6月18日 

ルリユ―ル : 近藤理恵
・ルリユ―ル綴じ込み作品:岩佐なをによる蔵書票(票主は江副拓良)
・仕様:総革装
・製本形態:プラ ラポルテ
・綴じ:支持体に糸綴じ
・表紙:背は茶オアシス革、平は濃紺山羊革
・デコール:中身の版画をイメージするデザイン
      染めた和紙と革のドット模様のインレイ・モザイクおよびカラー箔押し
・見返し:ヴェネツィア製マーブル紙
・はなぎれ:コワフ
・箔押し:近藤理恵による表紙裏にメッセージの箔押し
・サイズ:h195×w193×d15mm
・夫婦函:背革、外布、内スウェード貼り h218×w310×d30mm
・制作年:2013年

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『わが密室を彩る画家たち』

『わが密室を彩る画家たち』

『わが密室を彩る画家たち』

山本芳樹さんを神戸の自宅にお訪ねしたのは2003年頃だったでしょうか、今となっては定かではありません。神戸元町の海文堂で著名人の色紙の中に山本さんの色紙を見つけ、会いたい気持ちが湧いてきました。事前に訪問日時をお知らせしていましたので、お訪ねした時にはもちろん在宅されていましたが、「病院から抜け出してきました」と平然と話されたのには驚きました。当時入院中だったのです。書斎の二面にはびっしりと本で埋まった大きな本立てがあり、テーブルの上にも本が山のように積まれていました。イリナ イオネスコの撮影と思われる、山本さんとほぼ同じ大きさの写真が立てかけられているのが目を引きました。山本さんの厖大なバイロスのコレクションを拝見するのが目的の一つでしたが、少し前に兵庫県立美術館に全て寄贈されたということで、残念ながら残っていませんでした。しかし書斎で長時間お話ししてしまいました。後日、お願いしていた筆書きの識語と署名紙が届きました。

本書にバイロスの記述があることからバイロスの蔵書票を入手し、該当ページと山本さんの写真付き略歴ページに綴じ込んでもらいました。この他、識語と署名紙の前には坂東壯一さんの蔵書票も綴じ込んでもらっています。緑のカーフ革の平に本の内容にマッチした長い髪の女性が黒の山羊革で装幀された本書を見たら、山本さんはきっと喜んでくれたことと思います。

ところで不思議なことに、本書の奥付には白い紙が貼られていて、具体的な出版内容を知ることが出来ないようになっています。しかしインターネットで検索し、奥付内容を知ることが出来ました。

原本書誌
・著者:山本芳樹
・装幀 & レイアウト:畑本久幸
・写真撮影:名和秀樹
・発行所:中外書房
・サイズ:h210×w210mm
・出版年:1979年

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『季刊 R*』 第1号~第8号

『季刊 R*』 第1号~第8号

『季刊 R*』 第1号~第8号

『R*』は鹿鳴荘から出版された全ページ和紙に活版刷りした文集で、各号設定されたテーマに沿って多くの作家や詩人が寄稿し、版画家はオリジナル版画を提供している100部限定の冊子です。第1号から第8号までのテーマは、それぞれ「身体」「薔薇」「椅子」「天体」「顔」「草」「山」「海」です。私の場合第2号からの定期購読だったため、第1号だけがエディション番号が異なっています。私は若いころ山登りをやっていたこともあり、8点の版画の中では畦地梅太郎さんや大谷一良さんの木版画が気に入っています。それとこの8冊を入れる函が版元から出ることになっていましたが、なかなか出ないのでしびれを切らして近藤理恵さんに合本してもらいました。濃い緑の革と同系色のクロスが交差する表紙と綴じ糸が外から見える造りを大変面白いと思いました。近藤さんは「将来別の形で製本できるように、本体を出来るだけ原状に近い形で製本しました」と、今後のことまで考慮した本造りに感動しました。

この文集は天がアンカットとなっているため、実は全く文章を読んでいないのです。

原本書誌
・著者と版画作家、( )は各号のテーマ、「 」は版画のタイトル:
R*1(身体);中村雄二郎、渋沢孝輔、田中清光、串田孫一、堀井英男「白のコスチューム」
R*2(薔薇);堀多恵子、伊藤海彦、田中清光、串田孫一、丹阿弥丹波子「つぼみ」
R*3(椅子);茨木のり子、田中清光、鈴木獏、串田孫一、宮下登喜雄「イスとイヌ」
R*4(天体);岸田衿子、田中清光、串田孫一、大谷一良「蒼球」
R*5(顔);中村眞一郎、飯島耕一、田中清光、串田孫一、小林ドンゲ「顔」
R*6(草);石垣りん、竹西寛子、支倉隆子、田中清光、串田孫一、渡辺達正「草」
R*7(山);鳥見迅彦、小海永二、田中清光、串田孫一、畦地梅太郎「山男」
R*8(海);吉野弘、矢内原伊作、田中清光、串田孫一、城所祥「H港」
・編集&発行者:沖一夫
・発行所:鹿鳴荘
・印刷:精興社
・サイズ:h260×w180mm
・発行部数:100部
・出版年:1983~1987年

ルリユ―ル : 近藤理恵
・仕様:半革装
・製本形態:交差式ルリュール、足付き
・綴じ:黄色の綴じ糸による交差式綴じ
・表紙:緑カーフ革、緑紬織クロス。
・デコール:交差した表紙で円カーブを描く。合本なので、中身に糊付けや耳出しをしない足付きの交差式にした。
・見返し:ノド革、装飾和紙
・はなぎれ:綴じ糸
・箔押し:近藤理恵
・サイズ:h263×w188×d33mm
・夫婦函:外布、内スウェード貼り h283×w204×d47mm
・制作年:2006年

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『藤枝静男と私』

『藤枝静男と私』

『藤枝静男と私』

郷里を同じくする藤枝静男さんと小川國夫さんは昔から親交があり、講談社から『藤枝静男著作集』全6巻が刊行された時、小川さんが全巻の解説をされたのは至極当然なことでした。この著作集に対する藤枝さんの思い入れは大変強く、全巻に署名しているだけではなく自作の陶印を二顆ずつ捺しているという熱の入れようです。本書はこの全巻解説の他に藤枝さんについて書かれている小川さんの文章のほとんどが一冊にまとめられたものです。柄澤齊さんが藤枝さんと小川さんの肖像を木口木版画で作品化されていることは知っていましたので、二人の版画を分けてもらうようにお願いしました。大きさが随分異なるので、一緒に綴じるにはふさわしくない、ということで藤枝さんの肖像画だけを綴じることにしました。同じく綴じ込んだ坂東壯一さんの蔵書票は、小川さんの作品用として制作を依頼したものです。それは、韻文叢書から出版された小川さんの作品の全てに、坂東さんの銅版画が綴じ込まれていて、小川・坂東コンビは切り離せないと思ったからです。このように本書は、藤枝静男さん、小川國夫さん、坂東壯一さん、柄澤齊さんという私の大好きな四人がコラボしている大切な一冊なのです。

このように私の想いが入ったこの本を近藤さんは、クリーム色と茶色と焦げ茶色の3色の革でバランスの良いコンポジションにレイアウトしています。この装幀は見返しと函の色合いとも相まってとても落ち着いており、しかも目に大変やさしい配色となっていて大いに気に入っています。

 

原本書誌
・著者:小川國夫
・発行者:長谷川郁夫
・発行所:株式会社小沢書店
・印刷:図書印刷㈱
・製本:大口製本
・サイズ:h190×w131×d15mm
・出版年:平成51993)年1120日 

ルリユ―ル : 近藤理恵
・綴じ込み作品:柄澤齊による木口木版画「藤枝静男」、坂東壯一による蔵書票、小川國夫の署名紙
・仕様:総革装
・製本形態:綴じつけ製本
・綴じ:支持体に糸綴じ
・表紙:茶山羊革、平にクリームと臙脂の山羊革の切り替え
・デコール:インレイ モザイク
・見返し:ノド革、臙脂色紙
・はなぎれ:編みはなぎれ
・箔押し:近藤理恵による表紙のモザイク上にタイトル・作者名の箔押し
・サイズ:h196×w138×d20mm
・夫婦函:外布、内紙貼り h212×w152×d27mm
・制作年:2004

 

 

 

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『独 楽』 UNA TRITTORA

『独 楽』 UNA TRITTORA

『独 楽』

UNA TRITTORA

銅版画「星夜」「橄欖」などに魅せられて、北辻良央さんの作品に興味を持つようになりましたが、なかなか所蔵することが出来ませんでした。Gallery KURANUKIで開催された「北辻良央展」に寄せて発行された『独楽』の普及本と限定本を入手することが出来ましたが、どのようにして入手したのか、今となってはその記憶が定かではありません。普及本には北辻さんの3篇の詩「硝子の庭園」「炎」「回廊」と6つのオブジェの写真「硝子の庭園」「炎」「回廊」「独楽」「天使」「花束」が図版として掲載されており、特装本には同じく3篇の詩のほか詩と同じタイトルの3点のオリジナル写真が貼り込まれています。

私はこの二冊を合本してルリユールしてもらいました。ごく薄いブルーグレイの表紙の平には逆三角形のモザイクで「独楽」を表現し、表紙には欧文で、裏表紙には和文でタイトルが箔押しされていて大変瀟洒な感じを受けるほか、濃い青の革を用いた背によって、全体が引き締まったように感じます。この本の全体から感じる雰囲気にマッチした辻憲さんの2種類の蔵書票を貼っています。辻さんは詩人の辻征夫さんの弟で、これまでに6種類の銅版蔵書票を作ってもらっています。

原本仕様
・著者:北辻良央
・発行:Gallery KURANUKI
・製作:株式会社 光琳社
・写真:北辻良央撮影によるオリジナル写真3点(ゼラチン シルバー プリント)
・サイズ:h211×w147×d7mm
・発行部数:100部
・出版年:1995年

ルリユ―ル : 近藤理恵
・仕様:総革装
・製本形態:プラ ラポルテ
・綴じ:支持体に糸綴じ
・表紙:背は青バッファロー革、平は白カーフ革。
・デコール:平に独楽をイメージした逆三角形の革モザイク。
・見返し:ノド革、青ファブリアーノ紙
・はなぎれ:コワフ(背革に突起をつけたもの)
・箔押し:近藤理恵による平のモザイク上にタイトル箔押し
・サイズ:h214×w150×d15mm
・夫婦函:背革、外・内紙貼り h226×w163×d25mm
・制作年:2004年

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