『愛書家のベル・エポック』

『愛書家のベル・エポック』

『愛書家のベル・エポック』

気谷誠さんは私が尊敬する愛書家です。生前ルリユ―ルを初め、書物に関することを沢山教えていただきましたが、54歳で急逝されましたので、まだまだ勉強不足の私は単位未取得のまま現在に至っています。署名が好きでなかった気谷さんに直接お願いしたかったのですが、結局私の願いはかなえられず大変残念に思っていたところ、青猫書房の古書目録で見つけた署名と識語のあるこの本を入手したことから、気谷さんと親しかった藤井敬子さんにルリユールをお願いすることにしました。大家利夫さんに頂いた気谷さんの生前の写真を口絵写真として扉の前に入れ、更に版画が好きだった気谷さんに因んで、扉や奇数章の前などに10点の版画を綴じてもらいました。このほか、毎日新聞、銀花、彷書月刊等に掲載されていた気谷さんを偲んで寄稿された鹿島茂さん、大家利夫さん、山田俊幸さんの記事を、巻末に掲載しました。

グレーに染められた山羊革とローマ漉き紙のスリップケースとシュミーズから本体を取りだすと、同系色の山羊革の表紙の上下に仔牛と山羊の革でモザイクされた8色の大小の長方形が目を引きます。その表紙を開くとグレー色の仔牛革と私の好きな小石系の流れるようなマーブル紙の見返しが現れます。綴じ込んでもらった版画は私の大好きなものばかりで、貴重な一冊となって本棚を飾っています。

原本書誌
・著者:気谷誠
・発行者:小川道明
・装幀:熊谷博人
・発行所:株式会社 図書出版社
・印刷:明和印刷株式会社
・製本:小高製本工業株式会社
・サイズ:h190×w126mm
・出版年:19931031

ルリユール : 藤井敬子
・綴じ込み作品:辻憲、柄澤齊、坂東壯一、Albin Brunovsky、佐藤暢男、塩崎淳子、山本六三、猪飼正、高田美苗、胡子修司のオリジナル版画
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン(綴じつけ製本)
・綴じ:5本の麻紐支持体 麻糸綴じ
・表紙:8色の仔牛革と山羊革によるインレイ、オンレイモザイク
・見返し:仔牛革とマーブル紙
・はなぎれ:2色の絹糸による手編み
・箔押し:大家利夫(本金)
・サイズ:h193×w136×d29mm
・シュミーズ:山羊革 ローマ手漉き紙
・スリップケース:山羊革と手彩色ローマ手漉き紙 h203×w144×d37mm
・制作年:2010

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『SHIP』1-6、7-12、13-18

『SHIP』1-6、7-12、13-18

『SHIP』1-6、7-12、13-18

柄澤齊さんから届いた『SHIP』出版の案内状には、「SHIPは柄澤齊とその工房「梓丁室」が定期的に発行するオリジナル版画入りの冊子です。年六回、隔月末に発行し、毎号、版画を中心とする様々なテーマのエッセイと、それに呼応しあう版画で構成されます。SHIPは原則として画廊、書店などでの取り扱いはいたしません。お申し込み、お問い合わせは梓丁室までお願いいたします。お支払いは冊子到着後の郵便振替となります」と記載されています。その創刊は2004年2月29日で、それから3年間18号まで発行されました。

本書には、口絵として柄澤さんの木口木版画が挿入されていて、本文中にもその号のテーマに沿ったカットが刷り込まれており、柄澤さんの本書に対する思い入れの大きさを感じさせています。1年分6冊を収納する保護箱を注文すると、『SHIP』専用の蔵書票が付いていて、本好きにはたまらない心配りです。この保護箱は柄澤夫人製作だ、といううわさを聞いていますが詳細は不明です。

2018年9月27日~10月28日に横浜は山手の岩崎ミュージアム・ギャラリーで「秋の図書館」展が開催されました。15人の版画家による「版画」と「本」のコラボレーションです。顔見知りの作家がたくさん出展されていましたので、私は初日とギャラリートークの日に会場に行きました。会場には魅力あふれる作品が所狭しと飾ってありました。作品群の中で目に入ったのが藤井敬子さん製本の『SHIP』でした。これを見て私は自分が所蔵している『SHIP』を思い出し、早速会場で藤井さんに製本を依頼しました。

藤井さんは1年分をひとまとめにして3冊製本し、梓丁室製作の保護箱に入れて届けてくれました。3冊はそれぞれ保護箱にすっぽりと収まり、表紙のオリジナルペーパーは異なりますが、製本形態は同じ交差式製本です。表紙の紙は肌触りが良く、肩肘張らないで気楽に取り出していつでも読める本として、私は身近に置いて愛読しています。

Ⅵ-13.『SHIP』1-6
原本書誌
・著者:柄澤齊
・発行:梓丁室
・製本形態:無綴じ6折、著者による木口木版画入り
・サイズ:約h197×w137mm
・発行部数:150部
・出版年:2004年2月~12月

ルリユール : 藤井敬子
・製本形態:交差式製本
・表紙:オリジナルペーストペーパー
・タイトル:仔牛革エチケット、金箔押し
・サイズ:h198×w139×d19mm
・函:梓丁室制作夫婦函 h257×w153×d28mm
・制作年:2020年

Ⅵ-14.『SHIP』7-12
原本書誌
・著者:柄澤齊
・発行:梓丁室
・製本形態:無綴じ6折、著者による木口木版画入り
・サイズ:約h197×w137mm
・発行部数:150部
・出版年:2005年2月~12月

ルリユール : 藤井敬子
・製本形態:交差式製本
・表紙:オリジナルペーストペーパー、仔牛革モザイク
・タイトル:仔牛革エチケット、色箔押し
・サイズ:h198×w139×d19mm
・函:梓丁室制作夫婦函 h257×w153×d28mm
・制作年:2020年

Ⅵ-15.『SHIP』13-18
原本書誌
・著者:柄澤齊
・発行:梓丁室
・製本形態:無綴じ6折、著者による木口木版画入り
・サイズ:約h197×w137mm
・発行部数:150部
・出版年:2006年2月~12月

ルリユール : 藤井敬子
・製本形態:交差式製本
・表紙:オリジナルペーストペーパー
・タイトル:仔牛革エチケット、色箔押し
・サイズ:h198×w139×d19mm
・函:梓丁室制作夫婦函 h257×w153×d28mm
・制作年:2020年

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『本をめぐる話 08-12』

『本をめぐる話 08-12』

『本をめぐる話 』

Ⅵ-8~Ⅵ-12は東京製本倶楽部の機関誌に掲載された文章を、5冊の冊子にまとめて新たに発行され、会員に頒布されたものです。倶楽部としては、いずれ製本されることを前提としての発行だと思われますので、私もこの5冊をまとめて藤井敬子さんにルリユールをお願いしました。

この5冊はそれぞれの表紙に趣向が凝らされていて、見る者を大いに楽しませてくれます。例えば『本をめぐる話 革装本』は山羊革と仔牛革を使った総革装となっており、『本をめぐる話 四』はその内容の大半が櫛笥節男さん、吉野敏武さん、田中栞さんの「そうてい」に関する文章であることから、田中さんの「そうてい考」をプリントした手染め楮紙と手染め楮紙とを手織りした表紙となっています。この手織の表紙をじっと見ていると気が遠くなってくるほど、細かく丁寧に織られているのです。『本をめぐる話 一』の表紙にも楮紙の手織紙が使われているところをみると、楮紙の手織という藤井さんの好みの一部を垣間見た思いがします。

Ⅵ-8.『本をめぐる話 一』
原本書誌
・著者:栃折久美子、気谷誠、高宮利行、大家利夫、モリトー良子、堀越洋一郎、奥平禎男、柄澤齊、市川恵理
・装幀:渡辺和雄
・発行:東京製本倶楽部
・発行部数:250部
・出版年:2008年

ルリユール : 藤井敬子
・製本形態:綴じつけ製本
・綴じ:5本の麻紐支持体 麻糸綴じ
・表紙:水牛革と山羊革と仔牛革によるインレイ、オンレイモザイク 手染め楮紙刷木版の手織紙、金泥
・見返し:手漉き楮和紙に木版
・タイトル箔押し:近藤理恵(本金)
・サイズ:h216×w150mm
・ジャケット:ソフトジャケット マーメイド紙にインクジェットプリント
・函:スリップケース h222×w160mm
・制作年:2012年

Ⅵ-9.『本をめぐる話 二』
原本書誌
・著者:酒井道夫、山田俊幸、関根烝治、北山晴一、岩切信一郎、栗田玲子、川口晴美、寺崎百合子
・装幀:渡辺和雄
・発行:東京製本倶楽部
・発行部数:250部
・出版年:2009年

ルリユール : 藤井敬子
・製本形態:プラ ラポルテ製本
・綴じ:テープを支持体とした綴じ
・表紙:山羊革、仔牛革、楮、三椏和紙モザイク
・見返し:楮和紙にドローイング
・タイトル箔押し:近藤理恵(色箔)
・サイズ:h216×w157mm
・ジャケット:ソフトジャケット マーメイド紙にインクジェットプリント
・函:スリップケース h222×w161mm
・制作年:2012年

Ⅵ-10.『本をめぐる話 三』
原本書誌
・著者:雪嶋宏一、宮下志朗、宗村泉、阿部宣昭、宮嶋康彦、折田洋晴、降旗千賀子、アントワーヌ コロン、気谷誠
・装幀:渡辺和雄
・発行:東京製本倶楽部
・発行部数:250部
・出版年:2009年

ルリユール : 藤井敬子
・製本形態:プラ ラポルテ製本
・綴じ:テープを支持体とした綴じ
・表紙:水牛革、山羊革、仔牛革、手染め楮和紙にパターンプリント
・見返し:楮和紙にドローイング
・タイトル箔押し:近藤理恵(色箔)
・サイズ:h216×w157mm
・ジャケット:ソフトジャケット マーメイド紙にインクジェットプリント
・函:スリップケース h222×w161mm
・制作年:2012年

Ⅵ-11.『本をめぐる話 革装本』
原本書誌
・著者:気谷誠、岡本幸治
・装幀:渡辺和雄
・発行:東京製本倶楽部
・発行部数:250部
・出版年:2010年

ルリユール : 藤井敬子
・製本形態:ライブラリースタイル製本
・綴じ:テープを支持体とした綴じ
・表紙:山羊革、パーチメント、白なめし仔牛革インレイモザイク、仔牛革オンレイ
・見返し:オリジナルペーストペーパー
・タイトル箔押し:近藤理恵(本金)
・サイズ:h215×w155mm
・ジャケット:ソフトジャケット キャンソン紙にインクジェットプリント
・函:スリップケース h222×w161mm
・制作年:2012年

Ⅵ-12.『本をめぐる話 四』
原本書誌
・著者:櫛笥節男、吉野敏武、田中栞
・装幀:渡辺和雄
・発行:東京製本倶楽部
・発行部数:250部
・出版年:2011年

ルリユール : 藤井敬子
・製本形態:プラ ラポルテ製本
・綴じ:テープを支持体とした綴じ
・表紙:山羊革、仔牛革、手染め楮紙の手織紙、手染め楮紙インクジェットプリント(田中栞「そうてい考」よりプリント)
・見返し:楮和紙にドローイング
・タイトル箔押し:藤井敬子(表紙に藍色箔)
・サイズ:h215×w156mm×d15mm
・ジャケット:ソフトジャケット マーメイド紙にインクジェットプリント
・函:スリップケース h221×w160mm×d23mm
・制作年:2012年

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『黒富士』

『黒富士』

『黒富士』

前橋市のアートギャラリーミューズが柄澤齊さんのオリジナル作品を頒布する「柄澤齊エディションクラブ」を開始したのは1997年のことでした。私は欠員が出るまでしばらく待っていましたが、ようやく会員になった後の2013年の第16回頒布作品がこの「黒富士」でした。『黒富士』は柄澤さんの二作目の小説のタイトルでもありましたが、頒布作品は単行本の本扉を飾ることとなりました。本書をルリユ―ルするに当たり口絵制作を柄澤さんにお願いしたところ、口絵のほかに付録として鉛筆画の装画下絵も送られてきました。思い掛けない贈り物に大いに喜んだ次第です。「口絵は題をつけるなら『富岳噴火図』というところでしょうか。質感重視で、少し厚めの雁皮に金属箔を使いました。台紙も厚めの水彩紙なので、足をつけて綴じないと開きが悪いと思います」と製本するに当たっての注意書きが添えられていました。

新潮社版本体、柄澤さんの署名落款紙、口絵、木口木版画、装画下絵などの材料を藤井敬子さんに預けて待つこと1年。いつもながら完成したルリユールを受け取るときには期待に胸が膨らみドキドキします。

取り出し口が黒い山羊革で縁取られ、黒のオリジナルペーストぺーパーが貼られたスリップケースから、タイトル『黒富士』に相応しい出だしです。シュミーズは、やはり黒い仔牛革とオリジナルペーストペーパーでできていて、シュミーズに包まれた本体の天小口の金色が目に鮮やかに入ってきます。本体はしぼのきれいな黒い山羊革で覆われ、そこにこの小説の大団円ともいえる富士山の噴火がデザインされているのです。赤い溶岩と灰色の噴煙が富士の火口から成層圏にまで届けと言わんばかりに力強く立ち上っています。その噴煙のさらに上には、ペガサスに跨って天駆けている主人公のナギが想像できます。まさにこの装幀は『黒富士』そのものなのです。藤井さんはこの小説をじっくり読みこんで、このようにデザインされたのだと感服いたしました。併せて、新潮社版のジャケットと表紙も巻末に綴じ込まれており、藤井さんの心配りが嬉しいばかりです。

ここで柄澤さんが持っている不思議な予知能力について話しておきたいと思います。

柄澤さんは1990年に版画集『死と変容 Ⅱ 洪水』を発表しています。柄澤さんに直接伺ってはいませんが、私はこのシリーズを個展会場で初めて見たとき、これは「気候変動・地球温暖化問題」を取り上げている、と直ちに思いました。すなわち、近い将来訪れるであろう人類の危機を予言していると思い、私は次のようなことを勝手に想像してしまいました。

地球温暖化が進行し、とうとう南北両極の氷や高山の氷河が解け出してしまい、海水面が上昇し地球は作品「洪水A、B、C」のような状態に陥ってしまいました。私たちは「Conversation Piece」のような環境の中で生活せざるを得なくなってしまいます。そしてとうとう地球上では生きてゆけなくなってしまい、何百年、何千年、あるいは何万年もの間私の長女は「睡りA」のように海底深くで、長男は「睡りB」のように宇宙空間で、洪水が治まるまで永い眠りに就くのです。実に永い時が流れ、あれほど地球上を覆っていた水もいつしか引き陸地が現れ、人類が再び棲めるようになりました。しかし地軸に大きな変化が生じてしまい、「時の井戸」のように引力の方向が逆になっている場所がいくつか地上に現われてしまいました。それほど地球は大きく変化してしまったのです。洪水が治まったことも知らないで、深い海底と宇宙空間で眠っている私の子供たちは、いつ目覚めるのでしょうか、あるいは目覚める時が本当に来るのでしょうか。地球の将来は現在の私たちの手に委ねられているのです。

このシリーズはこのような物語を私に空想させるのです。このほか環境問題を示唆する作品がこのシリーズにはたくさんありました。環境を仕事としてきた私にとって、このシリーズに取り上げられた多くの作品に柄澤さんの鋭い感性と予知能力を強く感じ、私は大いに敬服したものです。

このことを考えてみると、柄澤さんが「黒富士」で述べている富士山の噴火はただ小説のなかだけのフィクションに過ぎないのでしょうか。否、私はそうとは思えません。きっと近い将来富士山は噴火するに違いありません。なぜなら富士山は近年火山性微動が観測されている活火山なのですから。

ということで、ここで突然ですが東国原英夫さんの句に次のようなのがあります。
     花震ふ富士山火山性微動

原本書誌
・著者:柄澤齊
・発行者:佐藤隆信
・装画:柄澤齊 カバーと表紙「浮岳虹雷図」、本扉「黒富士」
・装幀:新潮社装幀室
・発行所:株式会社新潮社
・印刷所:株式会社精興社
・製本所:大口製本印刷株式会社
・サイズ:h197×w140×d28mm
・出版年:2013年12月20日

ルリユール : 藤井敬子
・綴じ込み作品:柄澤齊による口絵、木口木版画、装画下絵
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン(綴じつけ製本)
・綴じ:5本の麻紐支持体 麻糸綴じ
・表紙:3色の仔牛革によるインレイ、オンレイモザイク、赤い仔牛革に手染めグラデーション
・見返し:仔牛革と楮和紙に手彩色
・はなぎれ:4色の絹糸による手編み
・タイトル箔押し:大家利夫(本金)
・小口装飾:中村美奈子(天金)
・サイズ:h197×w144×d34mm
・シュミーズ:仔牛革とオリジナルペーストペーパー
・スリップケース:仔牛革とオリジナルペーストペーパー h203×w150×d45mm
・制作年:2016年

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『幻想と怪奇』

『幻想と怪奇』

『幻想と怪奇』

藍峯舎は大手出版社に勤務していた深江英賢さんが2012年に立ち上げたプライベートプレスです。立ち上げに当たっての志や社名の由来をそのホームページで知ることが出来ます。江戸川亂步の作品をこれまで数多く出版されていて、そのすべてが完売という、希有な版元です。それはすべての出版物が、用紙の選定から、印刷、装幀、造本まで、時間と手間をかけて磨き上げ、隅々にまで神経が行き届いた「美しい本」だからなのです。私はこの藍峯舎の書籍は全部所蔵していますし、これからもずっと藍峯舎本を追い求めてゆくつもりです。そして藍峯舎本をお手本としてレイミア プレス本を出版してゆきたいと思っているのです。

私が敬愛する坂東壯一さんのオリジナル版画が綴じ込まれた本書をこの藍峯舎に予約したばかりではなく、深江さんに無理をお願いして、本扉、見返し、挿絵、奥付などすべてを含んだ未綴じ本を分けていただきました。これとは別に坂東さんには挿絵と同じオリジナル手彩色銅版画一式を分けていただき、「MEMENTO MORI」の蔵書票と所蔵していた坂東さんの手彩色銅版画2葉と共に、藤井敬子さんにルリユ―ルしてもらいました。

黒の仔牛革と黒とこげ茶の縦縞のオリジナルペーストペーパーによるスリップケースとシュミーズから取り出した本書は、表紙全体の黒の仔牛革に大小の四角い黒の仔牛、水牛、山羊革でモザイクされています。この四角の革のしぼがそれぞれ異なっているために、光に当てて動かしてみると面白いようにコントラストが変化します。赤く染められたこれらの革の断面が全体の黒のなかで印象的です。表紙を開くと同じく黒の仔牛革とグレーのヌバック革の見返しが現れます。この見返しを開くと坂東さんが描かれた原本の見返しが現れます。原本の前見返しには叢の中に女性の顔が、後見返しには花に囲まれた髑髏が描かれていて、いやがうえにも本書の雰囲気を盛り上げています。

製本の途中藤井さんから「旧字で明朝4号の『步』を探している」との連絡で、築地活字、内外文字印刷、佐々木活字、しんこう印刷などいくつかの活字屋さんに問い合わせてみましたが、5号はあるけれど4号が見つかりません。インターネットで探すと臺灣の「日星鑄字行」にあることがわかりましたが、さすがに臺北ではどうしようもありません。ということで、著者名の活字を5号で揃えることになりました。この他「原本の造本仕様を読むと三方金の記載があるため、当初予定していなかったけれどそのようにしたい」という連絡がありましたので、お願いすることにしました。ただ製本すればよい、ということではなく、藤井さんはキチンと原本の隅々まで読んだ上で製本されていることがこのことからも良く分かりました。

原本書誌
・著者:江戸川亂步
・付属作品:坂東壯一によるオリジナル手彩色銅版画6葉
・発行者:深江英賢
・装幀:高橋千裕
・装幀仕様:総革装
・小口装飾:三方金
・発行所:株式会社藍峯舎
・印刷:株式会社精興社
・製本:大口製本印刷株式会社
・製函:株式会社岡山紙器所
・サイズ:h208×w157×d28mm
・スリップケース:h214×w162×d40mm
・発行部数:25部
・出版年:2015年12月25日

ルリユール : 藤井敬子
・綴じ込み作品:坂東壯一による手彩色銅版画8葉と蔵書票
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン(綴じつけ製本)
・綴じ:5本の麻紐支持体 麻糸綴じ
・表紙:仔牛革と水牛革と山羊革によるオンレイ、インレイモザイク
・見返し:仔牛革とヌバック革
・はなぎれ:絹糸4色三段編み
・タイトル箔押し:大家利夫(本金)
・木口装飾:中村美奈子(三方金)
・サイズ:h214×w159×d35mm
・シュミーズ:仔牛革とオリジナルペーストペーパー
・スリップケース:仔牛革とオリジナルペーストペーパー h222×w167×d45mm
・制作年:2018年

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