12.『Alphonse Inoue Works: Esquisses & Etchings 1976 – 2021』

- アルフォンス イノウエ エスキース集 -

私は年に2、3回神戸にアルフォンス イノウエさんを訪ねるのを愉しみにしています。お会いしてお話をしたり食事をしたりして半日を過ごすのですが、いつも刺激を受けて帰路に就くのです。アルフォンスさんは自分が疑問に思っていることなどインターネットで検索し、新しい知識を入手されているばかりではなく、新しく買った本を次々と読んでおられます。それに反して私はいつもノホホンとした日常生活を送っているので、アルフォンスさんが話される内容がとても新鮮で刺激を受ける、というわけです。
2020年初めから、新型コロナが世界を席巻し、わが国でも緊急事態宣言が発令され、自由な外出が制限されていました。そのような中で、少し流行が収まったかに見えた2021年7月に私は久しぶりに神戸に行き、アルフォンスさんのアトリエを訪ねました。
このようなステイホームの状況の中アルフォンスさんは、銅版画や蔵書票制作のために描いていたエスキース(下絵)を整理されていました。「作品が完成した後に残ったエスキースのうち、乱雑に描いたエスキースは破棄したものが多く、残っていて丁寧に描いたエスキースは作品総数の裡、僅か5、60点余りでした。エッチングにするつもりで着手しなかったエスキースもかなり残っていました」ということです。
アトリエでその整理されたエスキースを拝見し、その美しさに大変感動したのは言うまでもありません。それらは銅版画として完成する前の作家のイマジネーションがその画面から溢れていました。私はそれらのエスキースと完成した作品を並べて見ることにより、エスキースから作品に至る作家の制作過程を想像することができるのではないかと思いました。そこでこれらのエスキースと作品を併置した画集の出版を、即座にアルフォンスさんに提案したところ、快く承諾していただきました。
これまでレイミア プレスでは、アルフォンスさんの画集として『夢の半周』(オリジナル版と印刷版)、『蔵書票集』、『作品集』の4冊を出版してまいりましたが、この『エスキース集』により、アルフォンスさんの創造の世界をさらに深く理解することが出来ると、大いに期待したところです。
今回の画集は、普段私たちが見る機会がほとんどないエスキースを中心とした内容になっていますので、無理とは思いましたがアルフォンスさんに、エスキースと同じような水彩画をA版(特装版)に綴じ込みたいので制作をお願いしたいと申し出ました。当初はかなり厳しいというお話しでしたが、「出来上がるまで何年でも待ちます」とお話ししたところ、何とか了承していただきました。
この出版を計画してから1年半が経った2023年1月、アルフォンスさんのアトリエを再び訪ねました。私がお願いしていた水彩画が完成していて、一枚一枚それを拝見していましたが、それらの水彩画の素晴らしいことに、恥ずかしながらアルフォンスさんの目の前で、私はつい……。それほど作品の美しさと質の高さに感動・感激してしまい、胸にこみあげるものが沸き上がってきたのです。これほどまでにアルフォンスさんはこの『エスキース集』出版に想いをこめておられたのだと深く感じ入ってしまいました。
その一方ならぬ想いとは、校正の段階で強く感じました。校正紙は印刷所からまずアルフォンスさんに送られ、校正後に私あてに届くことになっています。校正紙を見ると、アルフォンスさんの指示が細かく記されています。図版ページはアルフォンスさんが、その他文章や作品リスト、年譜などは私が校正することにしていました。校正は、初校、二校、三校と繰り返され、次第に修正箇所は少なくなってきますが、アルフォンスさんの校正は修正箇所の指摘だけではなく、新しく描かれたカットが該当するページに貼ってあったりと、微に入り細に入った内容となっています。四校、五校と進み、とうとう最終稿は六校までとなりました。校正に大変時間がかかりましたが、お蔭でとても納得のいく美しい本が出来上がりました。
今回も3種類の出版を計画しました。すなわち、A版(特装版)、B版(普及版)そしてC版(未綴じ版)です。それぞれの仕様は次の通りです。
A版(特装版)は、私がいつもルリユールをお願いしている atelier CORYLUSの羽田野麻吏さんに、今回も無理を承知でお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。以前羽田野さんにお願いした印刷版の『夢の半周』ルリユール本をアルフォンスさんにお見せしたところ、そのパーチメント装が大いに気に入ったご様子だったので、今回も総パーチメント装にすることを羽田野さんは提案されました。羽田野さんデザインによる表紙がパーチメントの山羊革を透して見えるように、革を薄く削る作業に大いに難儀されたようでした。しかしそのおかげでアルフォンスさんの頭文字「A」をあしらった素敵なデザイン画を薄くなった革を透してほんのりと見ることが出来ます。見返しにつかっているマーブル紙は、羽田野さんが愛知県岡崎市にあるマーブル紙作家の杉浦綾さんの工房を訪ねて、今回の特装版に相応しいマーブルを特注で染めてもらったものです。パターンは同じですが色調はピーコック系とローズ系の二種類(エディション番号が奇数と偶数)があります。本書は大型本となるために一度に22部の製本は厳しく、2年にわたって2回に分けて製本することとなり、予約の皆さんには長期間お待ちいただくこととなりました。その結果、これまでにない素晴らしい一冊が出来上がり、レイミア プレスではこれ以上の本はもう出せないのではないかと思った次第です。
そしてB版(普及版)とC版(未綴じ版)は恩田則保さんにお願いしました。恩田さんにはこれまでも製本と函造りは何度もお願いしていますが、相変わらず丁寧で堅牢な本造りとエッジのきいた函造りには頭が下がります。このような作業を当たり前のようにやっていく恩田さんは、やはり典型的な職人です。いつも感謝しています。

Photo

A版

B版

C版

A版仕様

  • 本文紙寸法:267×257×11mm
  • 製本仕様
    構造:足つき角背製本
    表紙:総パーチメント二重装(製本家によるデザイン表紙)
    使用する革:パーチメント(山羊)、水蛇
    金線箔押し:線と花型モチーフの構成
    文字箔押し:表紙に著者名と書名、オモテ表紙チリに製本家名、ウラ表紙チリに出版年
    見返し:シープスウェード(色調はピーコック系とローズ系)と特注染めマーブル紙
    函の形態:夫婦函
    保護箱:白段ボールにラベル付き
  • 綴込み作品:銅版画5点と鉛筆・ペン水彩画(画寸平均229×194mm)1点
  • 製本:atelier CORYLUS 羽田野麻吏
  • 箔押し:中村美奈子
  • マーブル紙:Bottega di Aya製 特注手染めマーブル紙
  • 翻訳:阪本政仁
  • 印刷:㈱中野コロタイプ
  • 発行部数:20部(他にEA2部)
  • 発行日:2024年1月29日
  • ISBN:978-4-909796-05-9 C0071
  • 頒布価格:440,000円(税込)

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B版仕様

  • 本文紙寸法:267×257mm
  • 製本仕様:糸かがり綴じ 角背及び丸背紙装幀 函入り
  • 製本・製函:恩田則保
  • 翻訳・印刷:A版に同じ
  • 発行部数:丸背20部、角背140部
  • 発行日:2023年1月29日
  • ISBN:978-4-909796-06-6 C0071
  • 頒布価格:丸背45,100円(税込)、角背39,600円(税込)

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C版仕様

  • 本文紙寸法:308×278mm
  • 製本仕様:未綴じ函入り
  • 製函:恩田則保
  • 翻訳・印刷:A版に同じ
  • 発行部数:20部
  • 発行日:2023年1月29日
  • ISBN:978-4-909796-07-3 C0071
  • 頒布価格:33,000円(税込)

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