『幻想と怪奇』
藍峯舎は大手出版社に勤務していた深江英賢さんが2012年に立ち上げたプライベートプレスです。立ち上げに当たっての志や社名の由来をそのホームページで知ることが出来ます。江戸川亂步の作品をこれまで数多く出版されていて、そのすべてが完売という、希有な版元です。それはすべての出版物が、用紙の選定から、印刷、装幀、造本まで、時間と手間をかけて磨き上げ、隅々にまで神経が行き届いた「美しい本」だからなのです。私はこの藍峯舎の書籍は全部所蔵していますし、これからもずっと藍峯舎本を追い求めてゆくつもりです。そして藍峯舎本をお手本としてレイミア プレス本を出版してゆきたいと思っているのです。
私が敬愛する坂東壯一さんのオリジナル版画が綴じ込まれた本書をこの藍峯舎に予約したばかりではなく、深江さんに無理をお願いして、本扉、見返し、挿絵、奥付などすべてを含んだ未綴じ本を分けていただきました。これとは別に坂東さんには挿絵と同じオリジナル手彩色銅版画一式を分けていただき、「MEMENTO MORI」の蔵書票と所蔵していた坂東さんの手彩色銅版画2葉と共に、藤井敬子さんにルリユ―ルしてもらいました。
黒の仔牛革と黒とこげ茶の縦縞のオリジナルペーストペーパーによるスリップケースとシュミーズから取り出した本書は、表紙全体の黒の仔牛革に大小の四角い黒の仔牛、水牛、山羊革でモザイクされています。この四角の革のしぼがそれぞれ異なっているために、光に当てて動かしてみると面白いようにコントラストが変化します。赤く染められたこれらの革の断面が全体の黒のなかで印象的です。表紙を開くと同じく黒の仔牛革とグレーのヌバック革の見返しが現れます。この見返しを開くと坂東さんが描かれた原本の見返しが現れます。原本の前見返しには叢の中に女性の顔が、後見返しには花に囲まれた髑髏が描かれていて、いやがうえにも本書の雰囲気を盛り上げています。
製本の途中藤井さんから「旧字で明朝4号の『步』を探している」との連絡で、築地活字、内外文字印刷、佐々木活字、しんこう印刷などいくつかの活字屋さんに問い合わせてみましたが、5号はあるけれど4号が見つかりません。インターネットで探すと臺灣の「日星鑄字行」にあることがわかりましたが、さすがに臺北ではどうしようもありません。ということで、著者名の活字を5号で揃えることになりました。この他「原本の造本仕様を読むと三方金の記載があるため、当初予定していなかったけれどそのようにしたい」という連絡がありましたので、お願いすることにしました。ただ製本すればよい、ということではなく、藤井さんはキチンと原本の隅々まで読んだ上で製本されていることがこのことからも良く分かりました。
原本書誌
・著者:江戸川亂步
・付属作品:坂東壯一によるオリジナル手彩色銅版画6葉
・発行者:深江英賢
・装幀:高橋千裕
・装幀仕様:総革装
・小口装飾:三方金
・発行所:株式会社藍峯舎
・印刷:株式会社精興社
・製本:大口製本印刷株式会社
・製函:株式会社岡山紙器所
・サイズ:h208×w157×d28mm
・スリップケース:h214×w162×d40mm
・発行部数:25部
・出版年:2015年12月25日
ルリユール : 藤井敬子
・綴じ込み作品:坂東壯一による手彩色銅版画8葉と蔵書票
・仕様:総革装
・製本形態:パッセ カルトン(綴じつけ製本)
・綴じ:5本の麻紐支持体 麻糸綴じ
・表紙:仔牛革と水牛革と山羊革によるオンレイ、インレイモザイク
・見返し:仔牛革とヌバック革
・はなぎれ:絹糸4色三段編み
・タイトル箔押し:大家利夫(本金)
・木口装飾:中村美奈子(三方金)
・サイズ:h214×w159×d35mm
・シュミーズ:仔牛革とオリジナルペーストペーパー
・スリップケース:仔牛革とオリジナルペーストペーパー h222×w167×d45mm
・制作年:2018年