『PISEN PISNI』
1995年春、小平市鷹の台駅前の松明堂ホールで、版画家の柄澤齊さんの著書『銀河の棺』刊行記念の木口木版画展が開かれ、柄澤さんと詩人の渋沢孝輔さん、装幀家の高麗隆彦さんの3名による「詩・版画・装幀」と題した座談会が催されました。私はこの会場で大家利夫さんに初めてお会いしました。紹介してくださったのは武者統夫さんです。武者さんは限定本、特装本、ルリユ―ルに大変造詣の深い方で、書物に関する私の先輩です。
座談会のあとのパーティもそこそこに、大家さんは初対面の私を自宅兼アトリエに連れて行ってくれました。そして自分が製本した多くの作品を前にして、武者さんと限定本の装幀について話をしていましたが、私はお二人の話を夢中になって聴いていました。話の中には私が知らないことがとても多く、目から鱗が落ちる内容がたくさんありました。
その中で一番印象に残ったのが、大家さんの「本は自分でつくるものだ」という言葉です。「自分でつくる」とはどういうことなのか、その後しばらく考えましたが、自分なりに結論付けたのが、「自分で製本できなければ、自分の好きな本の製本を企画して、専門家に造ってもらえば良いんじゃないのか」ということでした。
以前から蔵書票を通して交流のあったオランダのJohan Souvereinさんから、1994年に譲ってもらっていたスロバキアの版画家Albin Brunovskyさんのオリジナル版画3葉が入った豆本『PISEN PISNI』の製本を、大家さんにお願いすることとしました。彼は個人的な製本依頼は受けないと聞いていましたが、思い切ってお願いしたところ、快く引き受けていただきました。どのくらいの期間で出来上がったのか、今では忘れてしまいましたが、手のひらにのる可愛くて、そして素晴らしい本として出来上がってきました。2003年秋東欧旅行でスロバキアはブラチスラバを訪れた際この本を持参し、この街に住んでいる故Brunovskyさんの奥さんに見せたところ、「なんて可愛くて素敵な本なんでしょう。私欲しくなってきたわ!」と、とても怖いことを言いながらも絶賛していただきました。私の自慢のルリユール第一号となりました。 (『黄金の馬車』書肆啓祐堂 Vol.12 Apr.2006を一部修正)
・著者:Jaroslav Seifert
・発行:LYRA PRAGENSIS
・出版年:1992年
・発行部数:200部
・綴じ込み作品:Albin Brunovskyによるオリジナル銅版画3葉
・サイズ:h105×w76×d10mm
・スリップケース: h110×w78×d13mm