「レイミア プレス」について

設立の経緯

1995年1月17日未明に阪神淡路大震災が発生し、神戸市在住の版画家アルフォンス イノウエさんも被害に遭った一人です。ご本人は銅版画用の重いプレス機の下敷きになり、全く身動きが取れない状態が1時間以上も続きましたが、幸い大きな怪我もなく九死に一生を得られたようですが、家は傾き室内は手の施しようもない状態だったとのことです。このことを知ったつくし館の主宰者山口博男さんは、アルフォンスさん支援のために、いち早く蔵書票の票主を募集しました。私は以前からアルフォンスさんにぜひ蔵書票を作ってもらいたいと思っていたので早速応募したのですが、このことが私がアルフォンスさんと知り合うきっかけとなりました。

蔵書票はその後10年ほど経った2005年に届きましたが、蔵書票だけでなく多くの作品に接していくうち、そこにアルフォンスさん独自の世界観を感じるようになりました。繊細な線描から現れる情感、平面にもかかわらず奥行きを感じさせる画面、その画面からわき出てくる詩情性と物語性等々……。なによりも英詩や仏詩にインスパイヤ―され創り出される作品の数々に、私はすっかり虜になってしまいました。そしてアルフォンスさんの版画集をなんとか出版できないかという思いを強く抱くようになったのです。

2006年5月、「アルフォンス イノウエ 詩画集出版企画書(案)」を携えて、私は神戸のアトリエを訪ねました。アルフォンスさんも以前から同様の思いを抱いていたようで、出版についてのご快諾をいただきました。

しかし詩画集の出版に当たっては、出版社をどこにするかが大きな問題です。この企画を実現する際、版元は商業主義に走らず、情熱と愛情とをもって具体化していただかなくてはなりません。色々悩み考えた末に、これはもはや個人出版しかないのではないか、しかも自分が版元になることが最適解ではないかという思いが強くなり、「ひとり版元」を立ち上げる決心をしたのでした。

版元になるには、まず版元名を決めなければなりません。処女出版としてアルフォンスさんの詩画集を出すのですから、アルフォンスさんの版画でたびたび取り上げられるテーマ、すなわちギリシア神話や英仏の詩に登場するスフィンクス、クリスタベル、レイミア、シメールなどから採用しようと考えました。私は学生時代からギリシア悲劇の「オイディプス」に興味がありましたので「スフィンクス プレス」という名称も思い浮かんだのですが、以前ジョン キーツの『蛇女』を今西信弥訳で読んで、ファム ファタル的なレイミアに魅せられていたこともあり、加えて奢灞都館から出版されていた『女十態』に綴じ込まれていた小版画の「レイミア」を大いに気に入ってもいましたので、熟慮の末に「レイミア プレス」と名付けることにしました。

しかもこの「レイミア」を「レイミア プレス」のロゴとして使っても良いというお許しをいただくという幸運にも恵まれ、とても嬉しくて仕方がありませんでした。

「レイミア プレス」は、アルフォンスさんの作品だけを出版するのではなく、私が日ごろから敬愛している坂東壯一さんと林由紀子さんの作品を出版することも念頭に置きながら私一人で運営してゆくという、極めてプライベートな版元として2007年2月に船出しました。

「レイミア プレス」では次のモットーを掲げ、印刷・製本に携わる熟練の職人さんたちが想いを込めて造った美しい本を、皆さまにお届けすることをお約束いたします。

  • 作家と購読者と版元の三者が喜ぶ本造り
  • 作家と購読者と版元の三者の信頼に基づく本造り
  • これが最後の出版だ、という気持ちで精一杯努力する本造り

ここではレイミア プレスで出版した書籍を、出版に至るまでのエピソードなどを混えてご紹介いたします。
加えて、私が永年趣味としているルリユールと蔵書票についてもご紹介したいと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

レイミア プレス 江副章之介